硬筆は「準1級と1級の差が10倍なのではなく、2級と1級の差が10倍」「実際に練習した感触としては、3級≦準2級<2級<<<<準1級<<1級」と書いた記憶があります。
では毛筆の方はどうだったのかというと…
実際に4級から1級まで毛筆の練習をした感触では、
4級<<3級<準2級<<2級<<<準1級<<<<<1級と感じました。
4級→大の大人が受験するには少々肩身が狭い(でも大人の書道初心者はここからスタートした方が良いと思う)
3級→行書と細字が入ってくるので、小中学校の書写しかやったことがない人が独学で受けるならこの辺りが限界か?
準2級→臨書といっても唐代の楷書しか出ないので、3級とあまり変わらない。
2級→行書・草書と仮名の臨書。なるほど、3級と2級の間に準2級ができた理由もわかる気がする(2級へのソフトランディングを狙うのなら、準2級から行書の臨書を出題してもいいのでは?と思うが)。このあたりから、書写から「書道」へ意識の切り替えが必要になってきそう。
準1級→草書の自運が入ってくるのが地味にキツい。あと理論もなかなか侮れない。これは確かに2級と1級の間に準1級がないとダメなやつだ(苦笑)
1級→楷書・行書・草書・隷書・仮名・漢字かな交じり文・条幅の創作・実用書(賞状)を全てをそこそこレベル以上で書ける人って、指導者クラスでもそうそう多くないと思うんだけど?ああだからこそ1級に合格したら「指導者証」が購入できるわけね。それにしても、条幅と賞状、表現の方向性が全然違う課題を同時に要求するなんて中々面倒くさい試験だな…。
硬筆の時は準1級と1級の難易度差は大きいとは感じませんでしたが、毛筆に関しては、1級は準1級の10倍難しい…とまでは思わないけど、準1級の5~6倍の練習量が必要だと感じました。
実際、1級の試験対策では、半紙約3000枚、条幅100枚、賞状も50~60枚は書いたと思います。
硬筆は、2級と準1級はともかく、準1級と1級は実技の出題形式はほぼ同じ。準1級から1級の練習は、草書体を覚える量を増やすことと、準1級のブラッシュアップという感じでした。
ですが毛筆の場合は、
2級からは「仮名臨書(粘葉本和漢朗詠集)」「行書・草書の臨書」
準1級からは「粘葉本和漢朗詠集以外の仮名臨書」「草書の自運」「北魏系楷書の臨書」「ハガキの表書き(実用書道)」
1級では「隷書の臨書」「半切の自由作品」「賞状」と、新しい&やや難易度が上の課題が追加される。
なので3級&準2級・2級・準1級・1級の間に、壁が一つ以上そびえたっている感じがしました。
そして個人的には、硬筆1級よりも毛筆1級の方が合格のハードルが高いと感じました。
その理由は、
・毛筆を完全独学で練習するのは却って遠回りになる。
義務教育の小中学校の書写では楷書がメインで、行書は多少触れる程度でしかない。
高校の芸術科目で書道を選択すれば、草書や仮名、隷書を書く機会もあるかもしれません。でも高校で書道を選択する人は高校生全体では2割程度ではないかと思います(学校によっては書道の選択自体がないところもあるそうですし。)
つまり、学校で習う機会がないであろう行書・草書、仮名、賞状、半切、細字の書き方を、市販の教材でもってゼロからすべてを独学で練習するとしたら、それは却って効率が悪いと思うのです。
となると、どこかしら書道教室に通うことになります。(もっとも、毛筆書写技能検定を取得したいがためだけに書道教室に通う人がどれだけいるのか?という感じもします。単に「字が綺麗に書けるようになりたい」と思って書道教室の門をたたく→練習の過程で検定の存在を知って受験する、という人が多いのではないでしょうか。)
・書道教室に通うとしても、毛筆1級の出題範囲全てを網羅できる先生は決して多くない。
私の通ってる書道教室は漢字や公募展の作品制作が中心ですが、仮名も教えられる先生なので、仮名の練習で苦労しないで済んだのはラッキーでした。ですが漢字を専門とする先生には、仮名は門外漢(教えられない人)の方も結構多いんです。
教室では扱っていない門外漢の1~2分野は独学で練習するか、別の講座等に通うなどして練習することになります。
とはいえ、基本的な筆遣い(楷書・行書・草書)や作品制作のコツ(条幅や細字、実用書)がある程度身についていれば、仮に門外漢の分野が1~2つあったとしても、どういう道具や本を買えばいいのかもある程度検討をつけられるでしょうから、完全独学で練習するよりはスムーズに練習が進められると思います。
ただ、教室で与えられるものだけをこなしているうちに、自然と1級合格に足りる能力が身につくか?と言われたら、そう単純な話でもないです。受け身で練習しているうちは、多分20年通っても1級には受からないと思います。
もし本当に毛筆1級に合格したいのなら、教室で教わっている技術・知識をベースにして、書写技能検定の出題傾向に沿った練習を別途上乗せしていく必要があります。
私の場合も、教室で使用している競書誌では、漢字かな交じり文と賞状を練習する機会がなかったことから、漢字かな交じり文と賞状の書き方だけは、書写技能検定のテキストや市販のテキストを参考に独学で練習していました。
(※2023年4月に競書誌を移行し、移行先の実用細字部では漢字かな交じり文と賞状が出る時もありますが、私が毛筆1級を受験した時点ではこの2課題は独学で練習していました)
・実技の練習場所が限られてしまう
硬筆の時は、練習に必要な道具はテキスト(手本)や紙・ノート、ペン類だけでしたから、自宅以外のカフェや図書館でも練習時間を確保できました。
ですが毛筆の場合は、自宅や書道教室以外での練習はなかなか難しいのではないでしょうか。
ペン字だったら、15~30分程度の時間があれば、隙間時間で練習することもできるのだけど、毛筆となると隙間時間でやるには手間がかかります。ある程度まとまった時間がとれないと、なんとなく練習がしづらいと思います。
・実技の練習に手間と時間がかかる(量産がしづらい)
硬筆1級の場合、過去問1回分(実技第1問~第6問)を通しで練習するとしたら、40~60分もあれば、1回分の練習が終わります。
本番は理論・実技を合わせて90分ですが、ゆっくり書いても大抵は時間は余ると思います。
ですが毛筆1級の場合、過去問1回分(楷行草3体・漢字かな交じり文・漢字臨書・仮名臨書・半切・賞状をそれぞれ2枚ずつ)を書くと、ゆうに2時間を超えます。
また、墨や道具の準備、後片付けなども、硬筆に比べると結構時間がかかります。「今日は仮名の練習日」「条幅の練習日」と、問題ごとに練習時間を固めるようにしていました。
・理論問題もオール記述で地味に面倒くさい
毛筆1級の理論で地味に厄介なのは「書道用語」の記述問題だと思います。
この1問だけで400点中50点も配点があるんです。
覚えるべき知識量は、「手びき」や「公式テキスト」に載っている書道用語を覚えればいいだけなので、決して多くはないですけども、もし仮にこの問題が解けないと、丸々50点を落とすことになってしまうため、テキストに載ってる用語はどの問題が出てもいいようにほぼ丸暗記しなくてはいけない。少なくとも一夜漬けで対応するのは難しいでしょう。
1級の理論問題の合格ラインは315点/400点以上なので、比較的難易度が低めな問題(旧字体・書写体・常用漢字・書道史)で、ほぼ満点が取れるくらいやり込まないと安心できないのが辛いところである。
なのでR5-1の試験後、「仮に実技が不合格でも、次からはもう理論の勉強をしなくてよさそうだ」と思った時は本当に心が軽くなりましたw
そんなわけで、「試験自体の難易度もあるけど、毛筆1級は練習の手間と時間がかかるので、硬筆1級よりも大変だった」というのが私の中での印象です。
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