毛筆書写技能検定の1級は、出題範囲が多岐に渡っているうえ、どの問題も90点が必要です。
まず、楷書・行書・草書の三体を手本なしで書けなければいけません。
細筆で行書・かなの連綿を書く力も必要。
各古典の特徴をつかみつつ、楷書・行書・草書・隷書のメジャーな古典をある程度形臨が出来るようにする必要もあります。
仮名の臨書も、高野切第一種・第三種、関戸本古今集の形臨ができるレベルを要求されている(※出題範囲として指定されている古筆は他にもあるけど、よく出題されるのはこの3つなので、まずはこの3つを優先して練習したいという意味です)。
漢字14文字・漢字5文字・仮名・現代詩のいずれかを、半切で自運で創作できるようになるまでには、練習量の蓄積が必要です。
また、賞状のレイアウト力と筆力も求められます。
これらの6つの異なる分野の書を、そこそこ高いレベルで書けるようになるまで練習する。
そして試験本番で、(ほぼ)一発勝負で大きなミスなく、2時間半(150分以内)で完成させるのは、本当に大変でした。
自画自賛したいわけじゃないけど、本当によく一発で受かったなぁ…という気がします。本当になんで受かったんだろう(おいw)
実際のところ、この検定の1級に合格している人に対しては「え?この程度しか書けないのに1級に合格したの!?ウッソー!!」などと揶揄されることは殆どないと思います。
むしろ逆に、1級に残念ながら不合格になってしまった人に対しては、「こんなに上手な人でも1級に受からないなんて、毛筆1級ってよっぽど難しいんだね」と思われることの方が多いのではないでしょうか。
とは言っても、毛筆書写1級は、世間一般の各書道会の師範試験の難易度と比較すると「合格は難しいけど、理不尽な難しさではない。」と思っています。
一口に書道師範といっても、各書道会ごとに取得に要する費用や難易度・要する期間には相当の差があります。
20年~30年かけてようやく師範に到達できる団体もあれば、簡単に師範資格が貰えてしまう団体もあります。
私個人の意見としては、簡単すぎる師範資格は結局誰のためにもならない、ただただ書道会の懐が潤うだけで、百害あって一利なしだと思っています。
簡単すぎる師範資格は、師範資格をもらった本人にとっても自信にならないし、周りからも「え、師範なのにその程度しか書けないの?大した事ないじゃん」と、書道師範全般に対するイメージダウンにもつながりかねないからです。
逆に取得までに時間がかかりすぎる&難しすぎる師範資格も、試験としてはどうなのかなとも思います。前に所属していた書道会の師範試験は、提出された課題そのものの出来栄えの良さは当然として、同時に書歴(受賞歴とかね)と日常の月例課題の成績も加味して判定されていたようでした。師範になるまでのハードルが高い分、師範の皆さん方はそれに相応しい実力があることは事実なのだけど、そもそも師範試験を受けられるようになるまでの時間がかかりすぎじゃね?と感じていたのも事実です。
書道師範の資格は、実力のない人に与えてはいけないけど、かといっていたずらに難しくする必要もないでしょう。要は生徒に教えるにあたって、最低限の能力があることが担保できればいいわけですから、正しい努力を積み重ねてきた人が報われる、程よい難しさが理想だと思っています。(もちろんそこから先は、更なる努力が必要であることは言うまでもないですよ)
そういう意味では、毛筆書写技能検定の1級は、実力自体が足りてない・練習量が足りない・練習はしているけど練習の方向性を間違えているうちは、何回受験しようが絶対に合格できないと思います。でも試験の出題傾向に沿った練習を積み重ねていけば、絶対に合格できる日がやってきます。
毛筆書写技能検定1級は、過去問や対策教材も入手できるし、模擬試験(書写能力診断テスト)もある。だから何をどう勉強(練習)したら合格できるのかわからない、ということもないはずです。
この「程よく難しい」ところにこそ、毛筆書写1級の合格に価値があると私は思っています。
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