硬筆書写・毛筆書写技能検定で、書写能力診断テストを複数回受験して感じたことは、書写技能検定では、字形の採点は意外と甘いのではないかということです。
私の回答をみていただければわかると思うのですが、一字一字を細かく見ていくと、意外とバランスが良くない字も少なくない。これが書道教室の月例課題だったら、確実に先生から朱を大量に入れられるレベル(笑)
なので、「この程度書けたら評価4(合格点)が貰えるんだな~」と思ったものです。
もっとも、試験本番は臨書課題を除いて、自運で課題を書く(手本を見ずに書く)ので、そのへんも割り引いて採点されていると思います。
でも逆に、字の大きさ、線の太さ、字と字の間の空間、天地左右の余白、行頭・行末のラインが揃っているか、縦軸・横軸が整っているかなど、レイアウトに関する部分は、上の級になればなるほど厳しくチェックされていると感じました。
どうしてこのような採点になるのか?
私が想像するに、書写技能検定は、書道会や流派などの垣根を超えて実施されている、文部科学省後援の検定試験だからだと思います。
実際、H29年度版手引きでは、
問 習字・書道界では古来より書風ということが言われております。自分が習った先生以外の人に採点されるのは、なんとなく不安です。
文部科学省後援 毛筆書写技能検定の手びきと問題集 平成29年度版 P107
答 気がかりになるのは当然です。したがって、検定においては、その点極めて慎重に処理していますから、安心して受験すればよろしい。三級から五級の審査基準の注には、小学校・中学校用の書写教科書の中に手本として示してあるものの書き振りの範囲内で隣、また、一級から二級の審査基準の注には、小・中学校だけでなく、高等学校用の書道教科書の中に手本として示してあるものの書き振りでという一項があります。したがって、あまりに特異な、個性の強い書き振りは望ましくないといえましょう。
文部科学省後援 毛筆書写技能検定の手びきと問題集 平成29年度版 P107
とありました。とはいっても、実技はマークシートではなく、人の目で採点する試験ですから、審査する先生ごとに、好みの書体や字形はあると思います。そこで得点がブレる可能性はゼロではない。
検定ではないですが、毎月の月例課題でも、審査する先生によって成績が上下変動する。私の場合、条幅では、A先生が審査をするときは写真版に載せてくれるけど、B先生が審査するときは中位〜下位になったりする、ということがよくありました。
また、月例誌の写真版に載ってる作品を見ても「なんでこれが写真版なの?」とか、「技術的には上手だとは思うけど、私はこういうテイストの作品はあまり好きじゃない」などと感じることは度々あります。自分の技術が上がって、また作品を見る目が肥えてくるごとに、自分の好みはよりハッキリしてくるんですね。
端正で点画が正確な書が好きな人もいれば、迫力のある書を好む人もいる。線が綺麗な字が好みの人もいる。骨太な字が好きな人もいる。人によって好きなタイプの作品は違うんです。
また、自分が習っている(習ってきた)先生からの影響も無視できません。自分が習っている書き方とテイストが似ているものは良く見えるだろうし、それとはかけ離れた字形はあまり良く見えなかったりします。
何が言いたいのかというと、字の綺麗さや上手さを判断するにあたっては、自分の好き嫌いや、習ってきた先生の影響を完全に排除するのは難しい、ということです。
検定試験では、習った先生の書風によって採点が左右されないように処理をしている(小中学校の書写や高校書道の教科書の書き振りの範囲内で)ということならば、字形に関してはそれほど厳しく採点できないのではないかと思うのです。
一方、字の大小、太細、字間、行間、余白の取り方などは、パッと見で客観的にわかりやすいのではないでしょうか。
「字が小さすぎる/大きすぎる」「縦のラインが曲がってる」「字粒がバラバラ」「墨の量が多い(少ない)」「線が細すぎる(太すぎる)」といった欠点は、審査員目線で見れば一目瞭然だし、答案間の比較もしやすい。
このように、客観的に判断しやすい箇所については、逆に厳しく採点されている(レイアウトに難があると減点に直結する)のだろうと推測します。
また、硬筆にしろ毛筆にしろ、一字一字の細部が微妙でも、全体的にバランスがとれていれば、それなりに上手に見えるものです。
古典の臨書でも、一字一字の形は微妙だったりして、なんでこれが名書っていわれているのか正直理解できないことも結構多いですけど、でも作品全体で見ると、味があって美しさを感じさせる。
ただ下手なだけの字と味のある字の差は何かというと、それはバランスがとれているかどうかなんですよね。
だから一つひとつの字形は微妙でも、余白が程よくとれているとか、筆脈が続いている、ラインや軸が揃っていれば、パッと見てまとまりのよい作品に見せることができる。
逆に一字一字の形は悪くなくても、縦軸がズレていたり、字粒が揃っていなかったり、余白が足りないと、作品全体としてはイマイチな印象を与えてしまうこともよくある話です。
硬筆・毛筆の1級に合格できた今思うのは、検定試験の出題形式・出題傾向に添って、体裁よく書けたら、筆力はそこそこでも硬筆・毛筆書写技能検定の1級に合格できるということです。ただ自分としては、まだまだ改善できる余地があると思います。
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